「回復できる希望を失わないで。勇気を出して、一歩踏み出してほしい」ー八幡厚生病院 米良貴嗣先生
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摂食障害の回復に携わる支援者の活動や「思い」に迫るインタビューシリーズ「回復の扉を、ひらく」第三弾!今回は、北九州市の八幡厚生病院にて、摂食障害の治療に取り組まれている米良貴嗣先生にお話を聞きました。
ー米良先生が、摂食障害の治療に関わるようになったきっかけを教えてください
北九州市の大学の医学部を卒業後、研修が終わって3年目に心療内科グループの上司から「摂食障害の患者さんを担当してみないか」を言われたことがきっかけでした。今から25年以上前になりますが、当時は摂食障害のことなど何も知らない状態でした。机に積まれた論文や本を読み漁りながら、臨床で病気のことや患者さんとの接し方を学んでいきました。知識も経験もなかったので、患者さんに振り回され、私自身も患者さんのことを振り回しながら、試行錯誤の中で治療をしていました(笑)。でも、そのうちに患者さんが回復していく姿をみるようになって、「摂食障害の患者さんって回復していくんだな」という手ごたえを感じていきました。
ー八幡厚生病院の摂食障害向け入院プログラムの経緯や内容について教えてください。
最初は私もいわゆる「行動制限療法(行動を制限して、体重増加に対して段階的に制限を解除する入院治療)」をしていました。欧米のような体制で治療するには日本の医療スタッフの人数では難しい状況でした。しかし、大学病院を離れて、現在の八幡厚生病院で働くようになり、次第に患者さんの食事中と食後の行動を見守れる体制への理解が院内で得られるようになりました。。そして、2015年から、欧米の摂食障害治療施設のプログラムを部分的に取り入れて、摂食障害の入院プログラムをスタートしました。
プログラムとしては、個別の診療の中での心理教育だけでなく、週3回の弁証法的行動療法(DBT)を取り入れたグループセッションや、作業療法、ヨガ、そして最近ではプロセスグループ(1週間の自分の回復や行動などを振り返るグループ)も提供しています。DBTのプログラムの中にはマインドフルネスのエクササイズも含まれています。作業療法については、心理士や作業療法士とチームを組んで、摂食障害だけでなく他の精神疾患をもつ患者さんと合同という形で提供しています。
ーどのくらいの患者を受け入れているのでしょうか?年齢制限は?
通常、8名~12名程度の摂食障害の患者さんが入院されています。多い時は15名くらい。入院期間は大体3か月ですが、併存疾患がある方や低体重の方など、長期入院が必要な場合もあります。年齢については、一応10歳以上にはしていますが、時々9歳くらいの患者さんも来ますし、その点については臨機応変に対応しています。北九州市近隣の方だと若年層の方が多い印象ですが、慢性化した摂食障害を抱えて、東京や大阪など遠方から来られる方々もいます。
ー退院する目安はどのように設定されていますか?
体重含め、健康を維持できていることを前提に、あとは病院食以外の食事(例:学校の食事や外食など)ができることが目安となっています。当院では、患者さんは「体重の数値を手放す」ことを基本方針としているので、患者さんは体重測定の時には体重計は見ずに計測します。「BMI〇〇を維持しましょう」という具体的な数字はあえて掲げずに、大体「このくらいの量を食べていれば健康を維持できる」という感覚を学んでもらい、維持する練習をしています。退院後は、通院の際に体重測定をし、健康を維持できていない場合は必要に応じて再入院することもあります。やはり、体重の数値を手放したほうが、患者さんは安定するという印象があります。
ー退院した後のケアは?
症状が不安定な方は、退院後も当院のデイケアを利用してもらっています。こちらは摂食障害に特化したデイケアではないのですが、摂食障害のプログラムも少しづつ増やしているところです。あとは、スマホで食事記録を撮影してもらい、外来の際に見せてもらったりもしています。写真を見ながらフィードバックし、食事量が減っていないか、食べるのが怖くなっていないかなどチェックしています。
ー摂食障害の患者さんに接するときに、最も大切にしているマインドセットを教えてください。
「どんな患者さんでも回復できる可能性がある」と信じて接するということでしょうか。摂食障害だけでなく併存疾患などがあると、なかなか思うように回復せずに諦めてしまうこともあると思うのですが、その人のペースで、その人なりに回復できると思っています。また、家族の支援も回復にとってとても重要だと思っていますので、家族会もオンラインで月一回提供しています。やはり、継続的に家族会に参加されている方が、本人の回復もうまくいっている印象があります。

ー摂食障害が治る/回復するという状態はどのような状態だと思いますか?
健康な状態であることが違和感なく受け入れられていて、自然な空腹感に従って食べ始め、自然な満腹感で食べ終われること。また、 食べたいものをちゃんと制限なく食べられてる状態というのが、摂食障害の症状としての回復した状態だと思います。
しかし、摂食障害の根本の問題は、やはり内面的なものだと思います。ありのままの健康な自分の状態が受け入れられていて、その上で、自分はどう生きていこう、どうすればより幸せになれるかということをうまく選択できること。そして、何かに固執しすぎに、時には撤退しようという判断ができていたり、「柔軟に生きていける」ということが回復かなと思っています。摂食障害の症状が良くなったとしても、根っこの生き方の部分がそのままだと再発のリスクもあると思っています。
ー最後に、現在回復のスタートラインに立たれている方々にメッセージをお願いします。
回復できる希望をとにかく失わないでほしい。勇気を出して取り組んでいければ、回復はできるし、自分なりの人生がちゃんと実現できる。 すごく怖いと思うのですが、勇気を出して、一歩踏み出してください
インタビュ実施日:2025年4月26日
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