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家族の力で拒食から抜け出して、自由で幸せな人生をつかんでほしい:星ヶ丘マタニティ病院小児科 井口敏之先生



摂食障害の回復に携わる支援者の活動や思いに迫るインタビューシリーズ「回復の扉を、ひらく」第七弾!今回は、名古屋市の星ヶ丘マタニティ病院にて、主に子どもの摂食障害の治療に携わっておられる小児科医の井口敏之先生にお話を聞きました



井口先生が、摂食障害の治療に関わることになった経緯やきっかけを教えてください


大学卒業後、名古屋第二赤十字病院で研修医として勤務を開始した2年目に、小児科に配属になりました。もともと希望していた心身症を、心身症や発達を専門にされていた恩師・斎藤久子先生の指導を受けながら担当することとなりました。当時(1980年後半)も、摂食障害の子供は年2-3人来院していたため、自然な形で摂食障害のこどもの診療に携わることとなりました。


コロナ禍で、摂食障害の患者が急増し、低年齢化していると聞きますが、現場の肌感覚はいかがでしょうか?また、こどもの摂食障害の特徴は?


未成年の患者は、やはりコロナ以降増加していると感じています。患者数でいうと、昨年がピークで、全体で100名程度の摂食障害の患者さんが初診されました。当科を訪れる患者さんの場合、神経性やせ症(拒食症)と回避・制限性食物摂取症(ARFID:Avoidant/restrictive Foot Intake Disorder)が半々で、非定型のものが多いのが特徴です。また、機能的嚥下障害という嘔吐恐怖で食べられない患者さんも多いのが、この年齢の特徴だと思います。


コロナ禍で患者が増えたのは、やはり「不安」が大きな要因だと思います。メディアで取り沙汰された「コロナ太り」に対する不安や、先が見えない中で学校も行けず、友達とも会えずに、何をしていたらいいのか不安を感じた子どもたちが、何かにすがるようにダイエットに飛びついてしまったというケースが多いと思います。


また、低年齢の子どもたちは、罹患期間が短いので、家族で取り組んでいただくと基本的には良くなるケースが多いようです。また、心理療法というよりも、栄養指導が重要だと思っています。罹患期間の短さと、親の力を活用しやすいというこの2点が、成人の治療とは違うように思います。



星ヶ丘マタニティ病院の摂食障害の入院・外来治療の内容を教えてください


基本的には、小児科医2名が患者をまず受け入れて、心理士とも連携しながら個々人のニーズにあわせた治療を提供しています。入院は、一応標準体重の65%以下の場合に検討するとしていますが、それもケースバイケースです。


入院期間も、一般的には3か月としていますが、特に期間に縛りはなく、家の状況や心理状態をみながら、最長で1年になる子もいれば、2-3週間で退院する子もいます。行動制限をベースにしつつも、比較的緩やかに、摂取カロリーに応じて、外出できる時間が増えていくような治療をしています。


外来では、Family-Based Treatment (FBT)*という治療法を基本的に活用しています。小児科医以外にも、当院の心理士は本格的なFBTを得意としていますので連携しています。FBT以外にも、人によっては、認知行動療法(CBT)やプレイセラピー、心理面接を行って、言語化が苦手な子には箱庭療法なども行ったりしています。個々の当事者や家族と治療法の相性を考えながらやり方を検討しています。


*FBTについては、荻原かおりさんのインタビュー記事をご参照ください

親御さんとはどのように関わっているのでしょうか?親の役割とは?


入院の場合は、1-2週間に1回ずつ親子面談をしています。カウンセリングというよりも、医者と親の立場から情報を提供し合い、お互い見えていない部分を補完しあうイメージです。外来の場合は、先ほどのFBTが中心となります。ただ、FBTをマニュアル通りに導入するというよりも、「親が責任をもって子どもに食事をとらせ、体重を回復させていく」という大前提の上に、必要と思える要素を取り入れています。FBTを導入してから、はるかに外来の診察時間が短縮化でき、より多くのケースを診れるようになってきたと実感しています。

FBTという治療法において、親は「摂食障害から子どもを救いだす役目」だと思っています。そして、その親の力をどのように引き出し、どのように家族機能を強化していけばうまくいくのかを考えるのが医者の仕事だと思っています。医者はどちらかというと指示を出すことに慣れていますし、そのような指示的なかかわりが合う家族もいれば、そうでないタイプもいる。そこを見極め、使い分けながら関わっています。

 

「子どもに食べさせる」というのがそもそも大変だと思うのですが、コツなどあるのでしょうか?


基本的には、病気を「外在化できているか」ということが大事だと思います。当院では、国立病院機構長崎病院小児科の錦井先生が書かれた「摂食障害 こころ版」という患者教育用のこどもむけパンフレット*を、事前に読んでいただきます。


親子で病気に対する共通理解をもち、病気と本人を切り分け、外在化し、親子で「一緒にこれを乗り越えていこう」という基本線をつくります。このスタートラインがないとうまくいかないので、導入での教育はとても大事だと思っています。


*星ヶ丘マタニティ病院が提供している患者教育用パンフレットはこちらから:https://www.toukeikai.com/sy_sesshu.htm


未成年の摂食障害の当事者や親にとって足りない支援やニーズは何だと思いますか?


当院を含め、小児科は小中学生の受け入れを基本としています。よって、高校生の場合は小児科では受け入れられず、また、他の受け入れ先も少ないことに危機感を感じています。一般的に、精神科は予約待ちが長く、また低体重すぎると重症病棟が空いてないという状況なので、高校生で特に低体重の子どもたちの受け入れ先が少ないのが現状です。特例で高校生を受け入れることもありますが、小中学生の患者が急増する中、継続的に受け入れるのは難しい状況です。


井口先生が、患者さんや親御さんと接する上で、大切にしているマインドセットやアプローチを教えてください


基本的には、患者さんは「治療者や周りが思っているよりも困っている」と思って接しています。ただ、それを否認したり、気づかないふりをして流しているケースが多いので、そのことに周りが気づいてあげることが大事だと思っています。


子どもたちは、「このままじゃまずいな」と思っていたり、一人ぼっちで一生懸命頑張ってきたけれどもう破綻しそうな気持ちを抱えていたり、お母さんに反抗してしまう自分に対し嫌悪を感じていたり。摂食障害になる子は手のかからない良い子が多いので、その子たちが摂食障害の治療を通じて「育ち直していく」ことが一番大事だと思っています


一方、親御さんは、そんな子どもの心がよくわからないことが多いので、子どもの気持ちの「通訳」をしてあげるようなスタンスでいます。子ども自身も気づいてない気持ちを面接の場で探っていき、子どもが自分の気持ちをちゃんと言語化し、親に伝えられるようにすることを大事にしています。


摂食障害は治る病気でしょうか?摂食障害から回復するということはどのような状態だと思いますか?


摂食障害は、中途半端な治り方になっていると、すぐまた再発してしまいます。ですから、「治しきる」ことが大事だと思っています。体でいえば生理が来る、標準体重の95%を維持できている。食事でいえば、気にせず前のように食べられるようになるとか。あとは、ちょっと食べすぎたと思っても、「まあいいや」と思えるようになる。


そのような感じになれば、ほぼ治ったといっていいのではないかと思います。治るまでの期間ですが、最近は2年以内くらいの患者さんが多いと感じています。FBTを導入してから、回復までの期間が早くなったと感じています。

最後に、現在回復のスタートラインに立たれている方々に一番伝えたいことを教えてください


摂食障害は本当に大変な病気で、悪い霊が取りついているような病気なので、親子の力で振り払っていけたら、本当に全然違う人生が送れて幸せになると思います。


 

井口敏之氏 略歴

医学博士、小児科専門医・指導医。市立病院や大学病院での小児科勤務を経て、現在は星ヶ丘マタニティ病院の副院長を務める。日本小児心身医学会、名古屋市小児科医会の理事として従事。マリア・ガンシー著、「家族の力で拒食を乗り越える -神経性やせ症の家族療法ガイド-」を監訳。名古屋市立大学医学部卒。岐阜県出身。




インタビュー実施日:2025年6月21日

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Image by Jadon Johnson

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